
ブライダルサロンで労働し、数年にわたって他人の結婚式をコーディネートしつづけてきたということが、彼女がテレクラを使ってゆきずりの異性との非生産的な快楽重視のワンナイトセックスに溺れる原因であったことはまず間違いない。
他人の結婚を否定することはないが、仕事として毎日他人の結婚式の希望を聞き、幸福の絶頂を演出するためのお膳立てをしているうちに、彼女は、こと自分に関しては、結婚にたいする興味の一切を失ってしまったらしい。
スレンダーな均整のとれた肉体を持つ若く美しい彼女が待ち合わせ場所に現れたとき、当然ながら私の胸に去来したのは「なぜテレクラを?」という疑問だったのだが、その疑問に対しては、「むしろテレクラでなければならなかったのです」というぞんざいに投げられたブーケのような返答を与えられたのだった。
彼女はすでに結婚と幸福というふたつのものを結びつけることが困難になっていた。自分のもとに次から次へと現れる平凡な男女たちの結婚のプランをまとめあげていく作業のなかで、美貌を持つ彼女の肉体は芯から冷え切っていったらしい。
凍りついた彼女の肉体をほぐしてくれたのは、テレクラであった。テレクラという場所でその日はじめて知り合った男性と無軌道なセックスをして、そのまま連絡先も手渡さずに永遠の別れをすること。このその場限りの燃え上がるようなセックスと死別以上に残酷な離別の繰り返しによって、彼女は自分の肉体を完全なる凍結から救わなければならなかったという。
テレクラを使うような品性下劣な男がちょうどいいんですよ、そう、まさにあなたのような、と彼女は冷酷な笑みを浮かべながら言った。
「性欲処理のための『もの』としてしか私のことを見てこない男性の手によって肉体をまさぐられ、チ○コをくわえて喉奥まで使ってしゃぶることを要求され、そして、オナホールであるかのようにマ○コにチ○コを挿入されて、欲望のままに身勝手に中出し射精される。それによって、幸福漬けのお客様たちから受けつづけたハッピーエナジーの暴力によって崩された私の精神バランスがようやく安定するのです」とテレクラ女性は私に語ったのだった。
だから、私は彼女の要求通りに、可能な限り精神性を欠いた状態で、セックスと情愛というものを切り離し、彼女の肉体を即物的に扱い、乱暴な挿入、自分勝手なピストンをこころがけた。まったく、性欲処理のための肉体として彼女は完璧であった。
これまでも性欲処理のためだけにテレクラを利用し、女体を抱いてきた。にも関わらず、「このセックスは性欲処理のためだけではないのだ」というような軟化した態度を装い、さながらセックスという行為に愛情じみたものが宿っているかのような振る舞いをしながらテレクラセックスを繰り返してきてしまっていた自分に気付かされた。
性処理の道具として扱ってほしい、という彼女とのセックスを通して、私ははじめて、エクスキューズを取り払われた状態での純粋な性欲処理セックスを堪能できたといえる。なるほど、女体というものを完全に「もの」として扱うというのは、これほどまでに難しく、また、それ特有の快楽を与えてくれるのか、という発見が確かにあった。
セフレ、というより、オナホールになってもらおうと思ったが、みなまで言うまえに断られた。その場限りであること、次がないことが、このテレクラ女性にとっては重要であるようだった。
明日からは、また、恋愛と性欲と幸福と結婚を混同している人たちの相手をしなければいけないから、といって、彼女は繁華街に消えていった。私は彼女の幸福を祈ることしかできなかったが、その祈りも、「もし幸福などというものがあるならば」という仮定によって支えられているに過ぎなかった。